朝霧/北村薫(ISBN:4488012809)

うーん。この本から書くのはどうなんだろう。実はこの本、北村薫のデビュー作を含む「空飛ぶ馬」(ISBN:4488413013)から始まる、噺家円紫師匠と<私>シリーズの5作目なのです。北村薫はよく「日常の謎」を描く名手と称されますが、このシリーズはまさに原点です。
すごい殺人事件とかが毎回(笑)おきるわけではなくて、日常の中にふとでてくる疑問や謎を通り過ぎずに見つめていくと、人間の中のさまざまな部分が見えてくるものだ、というスタイルをこのシリーズで確立しています。
ただ、このシリーズに関して言えば、文学部の主人公と噺家ということでところどころ文学的素養を問われる(いろんな俳句や小説や作家について結構突っ込んだ会話がでてきたり。)のでこれがちょっとつらい。もちろん、説明はあるし、出てくる作品とかを知らなくても読んでいけるのですが、もしすぐピンとくるような人だともっとしっくりくるんだろうなあとちょっと悔しい。とくに、「六の宮の姫君」(ISBN:4488413048)にいたってはすごい。どうすごいかはあえて書かないけど、ここまでくれば逆の意味で面白い。が読むのはなかなか大変。

この「朝霧」は、前作に比べれば(書かれた時期もかなり開いてはいますが)そんなことはなくて、なんとなくさらに洗練された気もする。一応ミニ感想。ネタばれはないと思うけど。。。

「山眠る」
この話は今までのシリーズとちょっと違う印象。はっきりと謎は解かれない。
踏み込めない、踏み込むべきではないところを前に、<私>の掛ける声がいいです。
「走り来るもの」
これは、純粋に、うまい!と思った。なるほど。話としてはあっさりしているかなあ?
「朝霧」
あとで読み返すと、偶然のように見せかけた話の流れというものを自然に(かつ巧妙に)組んでいる。電話での円紫師匠の台詞ににやりとします。この組み立てからかラストはとても読後感がよいです。